もう頑張らなくていいのだよ

ある日お寿司を頬張ると唇にあたった。3回くらいこんなことがあるとゾッとしてしまった。口を開けているつもりなのに開いていないのだった。何だろう?とネットで調べると顎関節症と判明。そのうちテレビ番組でコロナ禍に顎関節症になる人が多いからと口を開けたりマッサージする方法をやっていた。どうやら私だけではないらしいと少し安堵した。歯科で「食いしばり」と言われてマウスピースをこしらえた。寝るときに使ったら歯に何かが貼り付いてなかなか取れない夢で目が覚めた。顎関節は口を大きく開けるとこめかみ辺りがギシギシ鳴る。もともと口を大きく開けるのが苦手だったけど、ひとり暮らしで話すこともなく口を閉じたままという時間が多いので開口してギシギシ鳴らすことに努めた。ところが最近舌に亀裂が入り舌の中央部が白く何か貼り付いた感じで味覚も落ちたので口腔外科に行った。検査の結果「カビはありません。悪いものは無いので、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」と言われた。口腔外科でいう悪いものとは舌癌などのことだろう。唾液腺のマッサージを勧められた。思い当たることといえば脱水だけだった。最近は水分も食事も少なくなっていたので経口補水液OS-1やポカリでせっせと水分補給した。その甲斐あって少しずつ舌の白いものは取れた、が亀裂は治らなかった。脱水だけでなく医師はやはり「食いしばり」と緊張状態で舌が上に付いて真空状態を作るからと言う。「とにかくリラックスしてください。もし集中したり緊張して力が入っていると気付いたら直ぐに解いてあげてリラックスするよう努めてください。首もコチコチ。」と医師に言われた。口腔外科の先生は優しい研修医だ。リラックス、リラックス、と今度はリラックスに努める?ことに集中するので結局同じだ。そういえば私は掃除する時も料理を作る時もいつも歯を食いしばっている。それだけならまだしも心の中で「頑張れ、頑張れ」と声掛けして自分を鼓舞しているのだ。私は友人からも家族からも頼られる方だった。母といても頼られることが私には重かった。その重荷が取れたのは母から理由を聞いたときだ。「あなたと居るとお母さんと居るみたいなの」と母が言った。私は祖母と似ていると母は言った。祖母は母が15才の時に結核で逝去した。母は8人兄弟の長女で赤ん坊だった末の妹まで育てて来たのだ。親子が逆さまみたいと感じていた理由が解った時、私はやっと納得がいったのだった。環境からではなく私の性格からきているのだろう。いつのまにか頑張らなきゃ!と生きてきた私にとってリラックスするのは難しい。どうしたら良いのか?何が私にとってリラックス出来ることなのか、あれこれ考えながらTVをぼーっと見ていた私は買ってみた。これまでの私がしなかった事をしてみようとTV shoppingで買った事などなかったのに前から買う予定ではあったので思い切って購入したシャワーヘッド。トルネードのナノバブルというやつだ。リラックスへの一歩だ。翌日には届いたけど使ったのは3日後のことだ。この辺が違うのだろう。リラックスが身に付いている人は届いたらすぐに使うのだろうにと思った。そういう人は迷わず真っ先に好物を食べる。私は貧乏性で、子供の頃からそういうことが出来なかったことを思い出す。シャワーを使っている時は柔らかい水当たりしか感じなかったが髪を乾かすとフンワリ持ち上がったのには驚いた。髪の一本一本が立っていて風通しが良くなって軽い。頭皮の汚れを水流で落とすというのが実感出来る。髪の方に気を取られて身体の方の効果がはっきりわからないので次は洗髪無しのシャワーにした。あ、やっぱり違う!上手く言えないけど身体の表面がふわウルスベだ。薄いベールをまとったような感じだ。リラックスの一歩は成功した。「頑張れ、頑張れ」と自分に言い続けてきた私が「よく頑張ったね、もう頑張らなくていいよ」と自分に言ってあげる時はこの世とお別れする時だと思っていた。だから今、頑張らないようにと医師から言われると、もしかしたら、もうそろそろおしまいの所に来たのかなぁとも思う。思えば何十年もすぐに行ける所に住んでいても東京タワーもスカイツリーも行った事がない。残りの人生は少しずつ視点を変えた生き方をしていこう。今までの価値観ではなく真逆のことも受け入れてみよう。きっと見たことのない世界が見えるだろうから「そんなに頑張らなくていいのだよ、もう充分頑張ったよ、私。」今日から寝る前に自分の頭ナデナデしてあげようね。