小さな冤罪(1)

中学生の時、1人の男の子が授業中も休み時間も凄い目で私を睨みつけていた。理由がわからないので本人に聞きたいのだが近寄ると更にスゴい形相になり威嚇された。その男の子の友達であろう別の男の子達に訊いていって、ようやく原因究明に辿り着けた。何かで教師に叱られたらしい。その時、どうして先生が知っていたんだ?といぶかるその子に友達は「どうせあいつが先公に告げ口したんじゃねえのぉ」と言ったところ男の子はそれをそのまま事実と信じてしまったというのだ。叱られた内容すら知らない私は殺してやろうか、テメェというような睨みを浴びせ続けられた。私は友達という男の子に、ただ自分の思いつきで言っただけで事実ではない事をその子に言って!と頼んだ。私の言う事など耳も貸さないのだから信じているその友達の言葉しか彼は信じないだろうから、友達から根拠のない軽口だったと言ってもらうしかなかった。友達の男の子は自分の何気ない軽口がもたらした事実に真っ青になっていた。友達の一度の否定でも彼はなかなか納得せず、数回の説得で何とか怒りは拠り所を変えたようだった。数日後、やっと私は根拠のない睨みから解放されたのだった。

 

 修学旅行にはカメラは持ってこないようにと言われているからと父が持っていけというカメラを断った。お小遣いも決められた額より余計に持って行けと言ったが私は断った。父は全くお前は融通が効かぬ奴だ。学校のルールなんてクソ真面目に従わなくていいんだ。と父が言った。だが私は要領の良い子ではなかったから父がルーズに思えて嫌だった。決められたルールに従えないほどの強い欲求も願望もルールに対する反発も無かったからだ。ルールに反発しているのは父の方だった。宿泊先に着いた夜だった。先生が違反者がいないか持ち物点検すると言い各部屋を巡回してきた。あろうことか私のリュックの中にカメラが入っていた。父がコッソリ入れたのだ。教師は顔色を変えて私を睨んで何も言わずに回収した。私は咄嗟に弁明するという事が非常に苦手だ。それは言い訳にしか受け取られないだろうと思うし、それよりも第一に急展開に頭が真っ白になって回らない。この前の精神科の時と同じだ。先生は父とは仲が良く、よくウチに遊びに来ていた。二人で将棋を指している時、私はカメラのことを先生に言おうかとよほど考えた。しかし言えなかった。父は既に他界した。もし先生も他界していたら私の冤罪は永久に葬られたことになる。冤罪をかけられた時すぐに違う‼︎と反論できない自分の愚かさが口惜しいが、未だ出来るようにはなっていない。もしかしたら自分の思いも寄らないところでビックリするような冤罪は幾つも背負っているのかもしれない。はからずも自分も知らず誰かの冤罪を信じ込んでいるのかもしれない。