リアルで怖い独居老人の夢

昨日、夢を見た。いつもは「なんか夢見たなぁ」くらいしか覚えていないのにリアルで怖い夢だったので目覚めても怖さが残っていた。

90才過ぎくらいのガタイのいい男子独居老人が広めの一軒家に住んでいた。私は初めての訪問らしい。老人はあまり気乗りしない様子だが買うことに決めたらしく「80万でいいんだな?」と私に訊いた。私はこの仕事についてよく知らない新人らしかった。先輩の女子スタッフに確認すると86万よと言われ、老人に伝えに戻ると老人はもう書類に分割料金を書いていた。80万でいいんだな?と言いながら書類には初回15万で残りの3回が各20万と書かれてあったのだった。合計だと75万円だ。そこへまたスタッフが二人きて1人の男子は浄水器の設置係だった。私はその時初めて86万円の浄水器を老人に売っている仕事をさせられていた事に気付き愕然とした。老人は正しく書いていると言って書き換えを拒むので設置係はしようがないなと苦笑して商品をしまい始めた。ボケ老人だから仕方ないとスタッフは一応引き下がったけど、私は内心ホッとしていた。それよりも自分がそんな仕事の片棒を担いでいるという立ち位置がショックだった。老人はボケていても見えざる何かで守られているのか、ボケのフリをして危機を回避したのか?私には前者のように見えた。目覚めて怖かった。独居老人は狙われる。独居老人にはもう希望がない、欲しい物もさしてない、頼れる若者もいない。若い人が来てくれるのは物を売りつける時だけだけど、それでも誰とも喋らない淋しさはほんの少し癒される。バスのステップが自分には高くなってバスに乗れなくなった母もコンセントプラグひとつを買って来てやると言われて車代までと1万円渡していた。老人は利用されても仕方ないとただ諦めている訳ではない。老人の見る夢は単にうたかたではないからだ。あの世に金を持って行けるわけじゃないけどバラ撒くほどの金があるわけじゃない。人に動いてもらうには金が要る。そして金を払えば、もう誰も来なくなる。そんな独居老人の孤独が静かに泉のように湧き上がってくる。この夢をどう解き明かしすれば良いのか?オレオレ詐欺以外にもこういう詐欺まがいの高額商品の売り付けは、あちらこちらで起きているはずだ。羽毛布団、印鑑、消化器、ブルーシート、非常用充電器、何社も新聞をとっている老人もいた。「お願いだから新聞とってくれって若い人があんまり頼むから可哀想になってなぁ」と言った老人も実際にいた。あの独居老人は自分なのか、その方がまだ詐欺の片棒を担ぐより救われると思えた。『神は言われる。終わりの時に、わたしの霊をすべての人に注ぐ。すると、あなたたちの息子と娘は預言し、若者は幻を見、老人は夢を見る。』(使徒2章17節)最後の「老人は夢を見る」が、私は最近よくわかるようになった。老人は希望がない、なのに年をとるほど幸せになる夢を見るのだ。この夢は眠っている時みる夢のことではない。老人は孤独で淋しく希望がないけれど不幸ではないと思う。「人はただ一度死ぬこととその後に裁きを受けることが決まっているように」(ヘブライ9章27節) 老人が不幸でない理由はこれまでよりももっと目前に救いが迫っているからだ。「自ら死に急がなくてもその日は必ずやってくる。ただ待てば良い」私の両親はキリスト者ではなかったがそう言ってにっこりと最後を全うした。それは私には幸いなことだった。老いるのは怖いけど若気の至りも怖い。おお、なんてリアルな夢を見るんだい、せめて眠っている時くらい幸せな夢を見させてよ。